中小企業では、人的資源や金銭的資源が限られており、経理に手間暇かけることは大変です。
こんな時、どうすればいいのでしょうか。
幸いなことに、中小企業には簡便的な処理が認められることが多いので、案外許されているケースが意外とあります。
中小企業が簡易的処理を認められているわけ
経理のルールは、会計基準によって定められています。
大企業には、「企業会計基準」、公益法人などには、それぞれの法人の会計基準があります。(「公益法人会計基準」「社会福祉法人会計基準」「学校法人会計基準」など)
それぞれの法人格に、会計基準がある理由は、その組織を取り巻くステークホルダー(利害関係者)が誰なのかによって、知りたい情報が異なるためです。
以前のBlogで、会計基準の訳を書いているので、参考まで↓
中小企業にとってのステークホルダーは一体誰でしょうか。
税務署、取引先、借入していれば銀行、あとは社長自身。
これだけが利害関係者であり、あとは、関係ないのです。
大企業で、株を上場しているのであれば、有価証券報告書が必ず必要になります。この書類を作成するために、経理処理も、この企業会計基準に合わせて行わないといけないのです。
しかし、中小企業で、利害関係者が税務署だけという規模であれば、経理処理は、税務署が納得できるレベルであれば、十分ということになります。
中小企業会計基準というものがありますが、これはステークホルダーが少ない中小企業のために、企業会計基準から簡便的に処理できるものを列挙されています。
また、どの程度企業会計より緩くすればいいのか、様々な議論が続いている現状もあります。
手間だから辞めるべきもの、大変でも手間をかけるべきこと
昨今、電子マネーが拡充し、会社の経費を個人が保有するSuicaやPayPayで決済をすることが増えました。Suicaで支払ったときの処理を例に、原理原則と簡便的処理の違いがどのようになるのか、見てみましょう。
物品や電車賃などを支払ったものを個人の立替分とし、会社が後払いするケースが多いようです。
Suicaやバーコード決済で支払っても、現金で会社から立替分をもらうという仕訳になります。
また、Suicaやスマホ電子マネーに予め充当するお金を会社の経費として、個人に支払うケースもあります。
これだと、会社にとっても個人にとっても、もらって戻すというやり取りが発生して、中小企業での経理では、現実的だと言えません。
そこで、両者ともに簡略化したやり取りが、下記のとおりです。
お金を一回で渡して、それで一仕訳で完了です。これは、Suicaができて、自動改札機でしか利用できなかった時代からの名残でしょう。切手を購入したときに、たとえ即時に郵便に使用しなくても、通信費で経費を支払う処理と同じ考え方です。
しかし、これで損益計算書は正しく表示されるのでしょうか。
原理原則に従ったときと、簡略化したときの損益金額が80円もずれています。
今回の例ですと、たった一回バスに乗って、缶コーヒーを買ったケースです。もし、頻繁に電子マネーでの処理を行ったら、金額はもっと大きく膨らんできてしまいます。
果たして、これで正しい損益計算書とは言えないでしょう。
そして、この損益計算書を元に、経費を分析したいと思った時、正しい判断を導くことは難しいといえます。
数少ないステークホルダーのうちの1人、社長自身が、もっと会社のことを把握しておきたいと思ったら、そこは勇気をもって手間をかけて、経理能力を上げるべきだと思うのです。
会計は何のため、誰のためにあるのか
中小企業には、経理能力がないので、簡便的に処理してもいい、という暗黙の優しさが、世の中にあります。
しかし、それで本当にいいのか、よく考えることが、これからの時代に必要だと思うのです。
なぜなら、時代の変化に、取り残されるリスクがあるからです。
切手で、コーヒーは買えませんが、Suicaなら、なんでも購入することができる時代になりました。
Suica導入時と今では、Suicaの意味合いが大きく変わってきているように、古い慣習で作られた財務諸表をにらめっこしても、本当に必要な情報がのっていないわけです。
社長一人の感覚で、把握できる規模であれば、実務のレベルに合わせて、とりあえず税務会計にそって決算すれば、とくに問題はありません。
しかし、規模も大きくなり、社長の肌感覚だけではまかないきれなくなれば、中小企業といえども、きちんと経理処理をできるように準備する必要があります。
今の時代、簿記の知識がなくても、適正な経理処理ができる、クラウド型の会計ソフトが充実してきました。
本来の経理の意味を忘れず、かつ、うまくツールを使いこなすことで、経理ができるようになったのです。
これが、今の時代の経理だと考えます。