※ワルシャワのショパン像の手 ここから感情が溢れ出ています。
今、ショパン国際コンクールが開催されています。ポーランドのワルシャワにて、世界中から腕利きの若きピアニストが集まり、全身全霊の演奏が繰り広げられています。
このコンクールは、「チャイコフスキー国際コンクール」「エリザベート王妃国際音楽コンクール」と並んで、世界三大コンクールと言われています。どんなにプロとして活躍しているピアニストでも、本番で最初の一音を出す瞬間、緊張で指が震える様を見ると、見ているこちらも弾き手の世界に引き込まれます。
そして、音が鳴り出した瞬間、弾き手は一つ一つの音に、ありったけの感情を込めるため、表情の彩りを鮮やかになっていきます。はたから見ると、クラシックの奏者は1人で陶酔しているように見えますが、実は聴いている聴衆にとっても、安心して音の世界に浸れるきっかけにもなるのです。
実際、コンクールでも、1音も間違えず弾くよりも、多少のミスタッチがあっても感情と曲のウェーブを表現できた弾き手が評価されます。
クラシックでは、作曲者が書いた楽譜に従って演奏してナンボの世界ですが、実は、その中に、ありったけの感情を詰め込む技術を競うジャンルだと思うのです。
感情を表現する効果
日頃の生活でも、常々感情を抱えて生きています。
褒められて嬉しかったり、できなくて悔しかったり、絶対に許せないため怒ったり。
この感情のおかげで、私達は、前に進めると思うのです。
また、感情を表現することで、同じ思いを持つ人が集まってきます。
例えば、友人とランチにでかけたとします。
メニュー選択の基準が明快であること、運ばれたときの美味しそうな顔をして期待に胸を膨らませること、口にした瞬間の感情を素直に表現すること。そして、期待ハズレだったとき無反応ではなく、フォローを入れながら感想を言えること。
これだけで、この人と一緒に食事できてよかったなと思えるのです。
感情は、仲間を作り、共同体の核になる大切なツールでもあるのです。
感情の押し殺しほど怖いものはない
「無言の暴力」をご存知でしょうか。
コミュニケーショントレーニングで有名な「アサーショントレーニング」で、いくつか分類されるコミュニケーションスタイルのうちの1つです。
相手に対して、強く言いたい気持ちがあるのに、それを押し殺して何事もない素振りを見せることが、一番相手を傷つけているというものです。
なぜ、相手に言いにくい意見や感情を伝えていないのに、それだけで相手を傷つけているのでしょうか。
それは、相手の弁明の機会を奪うという行動や選択を制限させているからです。
直接伝えれば、相手も譲歩することもできるし、こちらを拒絶することができるはずが、そのチャンスさえ奪われてしまいます。
「よくないことは、だまっておこう」
が相手を追い詰めるので、それで「無言の暴力」と言われる所以です。
感情がダメではなく、表現の仕方が問われる
「良くない感情は、言ってはいけない」という考えは、相手を傷つけることがわかりました。
しかし、良くない感情を持つのは、当事者として辛いものがあります。
では、どうしたらいいのでしょうか。
それは、抱えた感情を表現する術を磨くことです。
先の、ショパン国際コンクールでの弾き手の感情表現を思い出してみます。
決められた楽譜、作曲者の指示を忠実に再現すること。
このような制限された中で、奏者の解釈や感情を詰め込むこと。音色を豊かにすること。感情の波を起こすこと。
こうした技術が、クラシックピアノで求められています。
やはり、どんな感情でも正しく表現し、それを受け取る人が共鳴できるよう洗練した技術を持つことが、コミュニケーションの真髄なのだと、ピアニストたちから教えられました。
一体誰が本戦に勝ち上がるか。ワクワクしながら現地からの配信を楽しむこととします。