経理の現場にいると、自分の力不足を目の当たりにするシーンがあったりします。
ここで、「ま、いいか」で済ますか、
「いや、スキルアップするぞ」と乗り越えるか。
よく、体育会系部活の経験者が、この根性を持ち合わせている説が信じられていますが、実は音楽(特にクラシック系)経験者にも、同じメンタリティをもっていることに、誰も気がついていないようです。
もし、困難を乗り越える力を持ちたい!
経理スキルをアップさせたい!
そう思う方に、ぜひ知っていただきたいことがあります。
不可能を可能にする力をつけたければ、ピアノを習え。
その理由を解説していきます。
なぜ右手左手を全く別々に動かせるのか
なぜ、両手別々の動きができて、音楽を成立させることができるのか。
ピアノ演奏をしたことがない人にとって、七不思議の一つに数えられていたりします。
昨今のデジタル的思考が浸透してきている中、このピアノ修行の意味を理解できない人が増えてきました。
今なら、AIで音楽生成できて、演奏までして、すべてパソコン内のデジタル信号で曲作りができる今、人間の手で音楽を奏でる意味が薄れてきています。
ピアノは、世の中にある楽器の中で、一番低い音を出し、一番高い音を出します。
つまり、音楽の世界での全知全能の演奏楽器であり、曲が進行するときの縦割り(高音から低音まで)を一括で一人で網羅する、唯一の楽器なのです。
このピアノを弾きこなすことで、ピアニストは、音楽をトータルに捉えて再現する術を持つようになります。
音大で指揮科で勉強する人は、まずはピアノをプロ並みに弾ける。理由はここにあります。
ピアノで音楽を捉えられないなら、オーケストラの指揮なんてできるわけない、そんな理屈です。
実は、ピアノ曲の譜読みから始まる音楽の習得に、物事の複雑な構造を紐解き、積み上げ直して会得する過程に非常に似ています。
メロディ(右手)と伴奏(左手)という単純な構造から、
メロディと和声の一部(右手)、伴奏と和声の一部(左手)という複雑な構造まで。
右手と左手の役割が目まぐるしく変わりつつ、全体像を把握するには、腕や指の筋力と器用さより、脳内のシナプスが複雑に入り込む必要があります。
そのため、この脳内電子回路を構築するために、ピアニストは幼少期からトレーニングをしているのです。
曲の途中で、鍵盤楽器で調をいとも簡単に移動できるのは、この訓練の賜物です。単純で飽きる音階練習、アルペジオを、いろんな調で練習する過程で、身体に覚え込ませているのです。
この地道な訓練の積み重ねで、初めて複雑怪奇な音楽構造を心と体で理解できるようになっていきます。
一曲自分のものにするまでの過程
では、実際にピアノ曲を人前で弾けるようになるまでの過程をみてみます。
譜読み
まず、ありえないくらいゆっくりした速度で、右手だけで音符をなぞっていきます。
ピアノ譜は、五線譜が2段になっており、上が右手、下が左手で演奏していきます。
まず、譜面の右手で弾くところを、ひたすらゆっくりと運指を確認して、一つ一つの音の長さ、リズム、休符の長さ、繰り返し箇所、音楽記号(クレッシェンド、フォルテピアノ、イタリア語で書かれた指示語など)、ひたすら繰り返しながらなぞっていきます。
曲の難易度と、弾く人の技術的レベルによりますが、回数にして少なくても2〜3回、私の場合は、20回は繰り返していきます。
右手に音(楽譜情報の搭載)を染み込ませたら、次に同じように左手だけ譜面をなぞります。今度は下の段。
ここでは、曲のベース部分になるので、和声をイメージしながら音を染み込ませ(これも楽譜情報の搭載)ます。
まず、左右で音がでるようにする
次に、右手と左手で合わせて弾きます。
これも、ありえないくらいの遅い速度で弾いてみます。
このとき、片手ずつ練習したときの頭の使い方から、まったく別の頭を使っていきます。
片手では、指や腕の筋肉をメインに動かしますが、両手弾きになると、体全体(上半身と下半身)を動かしていくのです。
ここで、やっと曲の全体像を垣間見ることができます。
片手練習で、予想していた音楽であるかどうか、答え合わせをしていくのです。
ここで、まだ、音情報を入れ込む前に、一部弾けるようになると、どんどんと速度をあげて、曲として弾きたくなる衝動にかられます。
このように、ありえないくらい遅くゆっくり弾くことができないと、永遠に音楽を完成することができなくなるため、ここでもクラシックピアノは修行とも言われる所以であります。
このゆっくりした速度を、少しずつ早めてみて、また躓くようなら速度をまた落とすの繰り返しで、徐々に音楽を弾き込むようになっていきます。
この段階が、デジタルの世界ではすっ飛ばされます。
そして、この地道な練習の意味が理解されないのです。
曲想の探求と暗譜
音楽は、いろんな音が重なっています。
それを人間が理解して再現させるために、
- 分解
- 速度を落として、身体の筋肉を通して音をインストール
- 速度を早めて弾けるようになったら、インストール完了の印
- 分解したものを、また組み合わせる
- 速度をまた、落として、違う身体の筋肉を使って複数の音を一度にインストール
- また、速度を元に戻し、弾けるようになるまで繰り返し
- とりあえず、音を出せるようになったら、インストール完了の印
- 7.の状態で、今度は曲想を見つけていく(新たな世界の探求)
- 自分の感情に音楽のインストールが完了
- 暗譜できるまで、何度も擦っていく。
- 自分だけの音楽に仕上がる
ここまで何度も行ったり来たりを繰り返しながら、曲を身体に染み込ませています。
実は、音楽の再現を通じて、奏者の原体験や解釈を表現しています。
これを曲を弾くことで、その表現するものを探す旅が、やっとここから始まるのです。
この過程は、ダンスの振り写し〜躍り込みに至る過程に似ています。
そして、指先を使う仕事である経理業務の覚え方にも、共通点があります。
デジタル時代だからこそ、効率化を図ることができるようになりましたが、この「ゆっくり」「繰り返し」のループこそ、自分の正解に近づける唯一の近道であることが、忘れされまいか、心配しております。
経理業務スキルを上げる手順
では、これを経理業務に落とし込んでみましょう。
日次業務を覚える
まずは、日々の経理業務を覚えていきます。
曲の習得と一緒です。
まずは、ゆっくりと丁寧に。経理は間違えないのが鉄則です。早く覚えようとして、ゆっくり覚えることをすっ飛ばして、効率性を求めてしまうと、間違えた方向にいってしまいます。
まず、眼の前の仕事は、何のためにやっているのか。
曲という試算表をイメージしながら、まずは各論を積み上げていきます。
もし、うまくできないタスクがあったとしたら、一旦速度を落として、覚え直します。
これが、簿記の技術なのか、利用しているExcel表や会計ソフトの理解なのか、攻略すべき相手をきちんと見定めるのです。
もし、速度を早めることができないなら、それは必要な知識がないことを意味します。
簿記検定を受ける、Excelの関数を利用できるようにする、パソコンのショートカットキーを覚える……。
こういった小さなスキルがなければ、タスクを積み上げることもできません。
データや帳票の保存方法一つとっても、簿記や経理の流れを理解できなければ、ファイリングさえできないのです。
月次業務を覚える
これは、ピアノ習得でいう「左右両手を合わせて音を出す」に当てはまります。
日次業務をしっかり理解していれば、この月次業務は、思いの外、スルッとできるようになります。
月次業務は、月に1回やるタスクを指しています。
日次業務でイメージしていたおかげで、月次で何をしなければならないのか、すぐに理解できます。
具体的には、月次決算をします。
各勘定科目が、この月間で売り上げた金額、発生した原価や販売管理費、それでもわけわからないお金の存在のあぶり出し……。
事業というひとつの音楽を、日々の業務で分解したものを積み上げたことで、解明していくことができます。
そして、ここであぶり出された数字が、経営判断に直結していきます。
つまり、事業という曲想を見つける作業が始まるのです。
要は、経営判断のことを指しているのですが、日々の日次業務がきちんと積み上げていないと、月次決算の数字が正しくならないため、間違った判断に誘導してしまうリスクがあります。
正しい月次決算をしたければ、日次業務の見直しをしましょう。
ピアノ曲の習得と一緒です。
できなければ、速度を落として、ゆっくり練習する。
日々の業務で見落としているものがないか、確認しましょう。
年次決算
さて、年次決算です。
正しい月次決算を11回やって、12回目に、いつもの月次決算にプラス、年に1回の決算業務を行います。
ここで、何をするのかは、会社や事業ごとに変わるので、各論は追求しませんが、1年間の結果を振り返って、会社の方針を見直すことができます。
まさに、ピアノ曲の習得で言えば、曲想を探る作業に当たるでしょう。
ここまできたら、日々の業務は当然のごとく、正しく行われているわけで、月次決算でも、きちんと数字を締めてきているので、ここで迷うことはないはずです。
ピアノと経理の共通点
もし、経理職でスキルを上げたいなら、ピアノのように全体をひとりで把握して理解できるようにしましょう。
もし、経理の現場に複数人職員がいる場合、それはオーケストラと一緒です。
オーケストラ全体を把握するのは、指揮者です。その指揮者は、ピアノで曲の練習をします。
経理業務でスキルをアップし、正しい数字をナルハヤで集計できるようになりたいのなら、日々の業務の精度を高めていくしかありません。
そこをすっ飛ばして、「ほら、効率化!DX化」とうたっても、いつになっても正しい経理はできるわけでもなく、月次、年次で尻拭いする処理を永遠に繰り返すようになります。
残念ながら、会計ソフトを作っているエンジニアでさえ、経理のスキルはありません。
でも、細胞や筋肉といった細部に、業務の真髄を染み込ませた経理担当者こそ、正しい数字を集計する術を身に付けているのです。
そういう意味で、ピアニストが曲を身体にインストールし、曲想を見つけていく過程は、経理担当者のスキルアップに大いに参考になります。
経営者の方へ
高い経理能力を身に付けた人を見つけるには、簿記資格とピアノ修行経験の有無を目安に探してみてはいかがでしょうか。
また、ピアノ修行経験がなくとも、今いる人材にその習得方法を学ばせたいと思われたら、ぜひ、鈴木までお声掛けください。
理論立てて、スキルアップの近道をナビさせていただきます。
そして、自分たちで業務の効率化やDX化を作り上げる人材に育つでしょう。
経理担当者の方へ
これからは、こうした自立できる経理担当者が求められます。
「全体像を掴むために、一旦分解して、スキルをつける」
「身につけたスキルで、正しくあるべき姿を見つけるため、業務に創意工夫をする」
そんな経理担当者が一人でも増えることを願っています。
=編集後記=
【昨日のできごと】
午前中は、個別相談で柏のコワーキングスペースへ。
その後、地元に戻り、ランチをいただき、スターバックスへ移動。
そこで、仕事をしつつ、夕方に帰宅。
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