初めて事業を起こすとき、一体何から始めればいいのか悩むことでしょう。
事業で必要な帳簿をつけるイメージがつけばいいのですが、だからと言って、なんでも税務署に聞くのも緊張する方もいらっしゃるでしょう。
会計事務所に勤めていた頃、法人成り(個人事業主から会社を設立すること)したお客様に記帳指導をする機会がありました。その時いつも思っていたことは、始めから経理の根幹を伝えること、税法の要件を知っておくこと、この2点を妥協してはいけない、ということでした。
「どうせ、最初から説明しても理解できないだろうから、最初はとりあえず、現金出納帳だけでもつけておいてもらおう。」と、あえて細かい説明を省き、あとは会計事務所で体裁を整えておけばいいという発想の職員が多くいました。
しかし、お客様の立場で考えると、やっと慣れてきたと思ったら、どんどん記帳の要件を後出しジャンケンのように言って来るのは、先の見えない作業をさせられている感覚でいるかもしれません。
そこで、私は、次のように考えていました。(あくまで、ご自身で会計ソフトに入力せず、記帳代行の場合です。)
現金出納帳に税法の要件を最初から盛り込む
主に、消費税です。
決算の時に、消費税の納税額を計算するときに、預かった消費税から仮払いした消費税を控除するイメージを、日々の記帳で肌で感じることができます。帳簿の要件を満たす必要性を説明しました。
簡易課税の場合、人工工事と材料持ち工事と分けて帳簿の勘定科目の横にのマーキングしてもらっていました。
巡回したときに、全部こちらで確認するのは、手間がかかります。このことから、納税意識を持っていただくこともできます。
売掛帳と買掛帳を期首から導入する
個人事業主時代では、現金主義で記帳しており、確定申告の時に会計事務所で期間損益に調整してもらっていた方が多くいらっしゃいました。
法人成りしたら、月次の段階で期間損益にします。それにより、月の売上に対して原価率や粗利率を把握できて、仕事の効率も分析することもできるようになります。
現金実査をする
これが、一番のネックです。たまに、現金残高がありえない高額になってしまっている会社もありました。原因は、個人事業主時代の、事業主借の感覚で会社の資金と生活資金の混在させていることが多いです。
個人のクレジットカードで事業用備品を買うなど、会社のお金と個人のお金が混在すると、資金繰り感覚を養う機会を失います。
交際費の要件を満たす
気をつけないと、家族との食事の領収書や、みんなで割り勘したのに領収書だけもらって、しれっと経費に落としていることがあります。
それを防ぐ方法として、領収書の裏に誰と食事したのか、取引先などの名前をメモしてもらいます。
費用を量増しする手法や、グレーな逃げ手段を使うようになってしまうと、いつまでたっても経営脳が育ちません。
もし、所得がたくさん出るのであれば、無理やり経費を作るのではなく、次の事業の展開に投資することを考えるべきなのです。税金と社会保険料が増えることを恐れていては、いつまでたっても、経営者にはなれません。
始めから完璧にできないことはわかっている
以上のように、スパルタかもしれませんが、正しい経理をお伝えして、実行していただいていました。もちろん、最初から完璧にできる方は少ないです。しかし、初めて帳簿をつけていただくときに、完成形をイメージできていると、お客様自身が色々と工夫するようになります。そうすると、1期目が終わる頃には、資金繰りや運用を考慮できる経営者になっていくのです。
できなくて、不完全な帳簿でお客様が悩む時が、経理の仕方をお伝えする一番のチャンスでした。悩んで困っているから、それを解決できる情報を伝えることができ、真剣に聞いてくださるのです。
今では、便利なクラウド会計のシステムを利用できるようになってます。
領収書をスキャンすれば、AIが科目と消費税を考えてくれます。
そうなれば、どんどんそれを利用して、記帳後に行う分析や事業展開に時間を割けるようになります。
手書きの記帳から得られる肌感覚、AIが仕訳してくれることで得られるデータ分析。どちらも記帳だけで終わらせない、その先をイメージしていただくことで、初めての事業で経営することを体感できます。
そうしていると、お客様は会計事務所のいいなりから、自分で考えてエビデンスの確認を会計事務所を利用するようになっていきます。
そして、事業を広げるのか、深堀していくのか、経営者として進む道を安心して歩いていけるようになっていきました。
単なる税務調査対策として行うのではなく、あくまで自分の事業を正しく把握します。
人のための帳簿つけから自分のための経理へ。
経理を通して、会社を見つめ、未来につなげることを目指したいと考えています。